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28話 オリビアの反撃 4

last update Last Updated: 2025-01-11 11:27:52

 オリビアがニールに馬車をまわしてくるように命令したことで、使用人達は一斉に騒めいた。

「う、嘘でしょう……?」

「あのオリビア様が……」

「俺たちの顔色ばかり伺っていたのに……」

「命令した……?」

一方、命令されたニールは信じられないとばかりに目を見開いていた。だが、徐々に怒りが込み上げてきたのだろう。顔を真っ赤にさせて身体を震わせ……。

「はぁあああっ!? ふざけないで下さいよ!! 何っで、この俺がオリビア様の為に土砂降りの雨の中、御者に連絡しに行かなくちゃならないんですか!!」

「土砂降りだから、行くように命じているのでしょう? だってこの中で一番あなたが適任者だから」

「何で俺が適任者なのですか! 冗談じゃない、馬車に乗りたいなら御自分で馬繋場へ行って来れば良いでしょう!? 俺はオリビア様のフットマンじゃない。ミハエル様に忠誠を誓ったフットマンなのですからね! ミハエル様だって俺に絶大な信頼を寄せて下さっているのですから!」

日頃から、自分は次期後継者になる人物の専属フットマンなのだと偉ぶっていたニール。

家族に無視されているオリビアなど、彼には鼻にもかけない相手だったのだ。

「あら、そうなの……」

オリビアは何がおかしいのか、クスクスと笑う。その様子に周囲で見ていた使用人達の間に困惑が広がる。

「おい、一体オリビア様はどうしてしまったんだ?」

「さ、さぁ……?」

「あまりに蔑ろにされ過ぎて、どうにかなってしまったのだろうか?」

けれど当事者であるニールは不愉快でならなかった。オリビアの態度は自分を馬鹿にしているとしか思えない。

「何がおかしいのですか!」

もはや、相手が子爵家令嬢だと言う事もお構いなしに怒声を浴びせるニール。

「だって、お兄様に忠誠を誓っているって言い切ることがおかしすぎるのだもの。一体どの口が言うのかしらって思えるわ」

「はぁ!?」

「よくも平気で嘘を言えるわね。兄の信頼を裏切って、部屋から金目になりそうなものを物色して盗んでいるくせに」

「……え?」

その言葉にニールの顔が青ざめ、周囲にいた使用人達は驚いた様子でニールを見つめる。

「何を言ってるのですか! いいかげんなことを言わないで下さい!」

「そう。認めないのね。だったら別に構わないわ。兄に報告するだけだから」

「ほ、報告ですって!?」

「ええ、そうよ。あなたの部屋をくまなく探
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     それは昼休みのことだった。親友のエレナが今日は婚約者のカールと昼食をとるということで、オリビアは1人でカフェテリアへ向かうため、他の学生たちに混じって渡り廊下を歩いていた。中庭近くに差し掛かったとき、大勢の学生たちが集まって何やら騒いでる様子に気付いた。(一体何を騒いでいるのかしら)少し気になったが、そのまま通り過ぎようとしたとき学生たちの会話が耳に入ってきた。「またアデリーナ様とディートリッヒ様か」「本当に騒ぎを起こすのが好きな方ね。さすがは悪女だわ」「でも、あれじゃ文句の一つも言いたくなるだろう」「え!? アデリーナ様!?」オリビアが反応したのは言うまでもない。「すみません! ちょっと通して下さい!」群衆に駆け寄り、人混みをかき分け……目を見開いた。そこには例の如く、ディートリッヒと対峙するアデリーナの姿だった。当然ディートリッヒの傍にはサンドラがいる。そしてディートリッヒはいつものようにアデリーナを怒鳴りつけていた。「いい加減にしろ! アデリーナッ! 毎回毎回、俺達の後を付回して! 言っておくが、今度の後夜祭のダンスパートナーの相手はお前じゃない! ここにいるサンドラと決めているからな! いくら頼んでも無駄だ! 覚えておけ!」「は? 何を仰っているのですか? 私がディートリッヒ様の前に現れたのは、まさか後夜祭のパートナーになって欲しいと頼みに来たとでも思っていたのですか?」両手で肘を抱えるアデリーナは鼻で笑う。「何だよ。違うっていうのか?」「ええ、違いますね。大体ディートリッヒ様が私のパートナーになるなんて冗談じゃありません。こちらから願い下げです」「……はぁっ!? な、何だとっ! 今、お前俺に何て言った!?」「もう一度言わなけれなりませんか? 仕方ありませんね……では、言って差し上げましょう。ディートリッヒ様と一緒に後夜祭に行くぐらいなら、カカシを連れて参加したほうがマシですわ」すると周囲の学生たちが一斉にざわめく。「おい、聞いたか?」「まぁ、カカシですって?」「よもや、人ではないじゃないか」「お、おかしすぎる……」「アデリーナ様……」オリビエも驚きの眼差しでアデリーナを見つめていた。「アデリーナッ! よりにもよってカカシの方がマシだと!? お前、一体なんてことを言うのだ! 冗談でも許さないぞ!」

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   44話 ありのままの話

     大学へ行く準備を済ませ、オリビアエはエントランスへ向かった。「おはようございます。オリビア様」「これから大学ですか?」「お気をつけて行ってらっしゃいませ」すれ違う使用人たちが丁寧にオリビアに挨拶をしていく。これはオリビアにとって、ちょっとした驚きだった。(まさか、ここまで周りが変わるなんて本当に驚きだわ。今まで皆挨拶どころか、すれ違いざまに悪口を言う使用人が多かったのに。やっぱりアデリーナ様の言う通り、我慢する必要は無かったということよね)エントランスに到着したので、オリビアは上機嫌で扉を開けた。 すると目の前に馬車が待機しており、笑顔のテッドの姿がある。「まぁテッド。一体どうしたの? まさか私を馬車で送ろうと思って待っていたの?」「はい、そのまさかです。今朝は昨夜降り続いた雨のせいで道がぬかるんでいます。自転車で通学するのは大変かと思い、お迎えにあがりました」ニコニコ笑顔のテッド。「送ってもらって良いのかしら? 私の他に今日は誰か馬車を使うかもしれないのに?」「馬車はあと2台ありますし、御者も2人います。俺がオリビア様をお乗せしても大丈夫ですよ」「それはなんとも頼もしい言葉ね。だったら今日も乗せてもらうわ」オリビアは早速馬車に乗り込んだ――**** 馬車が大学敷地内にある馬繋場に到着した。「送ってくれてどうもありがとう」馬車を降りると、テッドに礼を述べるオリビア。「いえ、お礼なんて結構です。俺の仕事ですから。それではまた帰りの時間にお迎えにあがりますね」「ありがとう。それじゃ行ってくるわ」オリビアはテッドに手を振り、校舎へ向かった。 「オリビアッ!」廊下を歩いていると、背後から大きな声で名前を呼ばれた。「あら、ギスラン。おはよう。珍しいわね、貴方が私を呼び止めるなんて」「何だよ。嫌味のつもりか?」ギスランの顔に不機嫌そうな表情が浮かぶ。「別に嫌味のつもりじゃないけれど……私に何の用かしら?」「実は、オリビアに聞きたいことがあるんだが……昨夜、フォード家に電話を入れたんだよ」「え? 電話? そんな話、知らないわよ?」「知らないのは当然だろう。何しろ、俺はシャロンに電話を繋いでもらうためにかけたんだから」「え? シャロンに?」婚約者のオリビアを前にして、悪びれる素振りも無く堂々と語るギスラン。(仮に

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   43話 頼んでも無駄

    —―翌朝 静かなダイニングルームに向かい合わせで座るランドルフとオリビアは無言で食事をしていた。ランドルフは先ほどからチラチラとオリビアの様子を伺っている。娘に話しかけるタイミングを計っているのだが、オリビアは視線を合わせる事すらしない。何とか会話の糸口をつかみたいランドルフは、そこで咳払いした。「ゴ、ゴホン!」「……」しかし、オリビアは気にする素振りも無く食事を続けている。ついに我慢できず、ランドルフは声をかけた。「オ、オリビアッ!」「……はい、何でしょう」顔を上げるオリビア。「どうだ? オリビア。今朝の朝食はお前の好きな料理を用意したのだが……美味しいかね?」「はい、美味しいです。ですがこのボイルエッグも、ブルーベリーのマフィンにグリーンスープはシャロンの好きなメニューではありませんか?」「何? そうだったか?」「ええ、そうです。私は卵料理なら、オムレツ。ブルーベリーのスコーンに、オニオンスープが好きです。尤も、一度もお父様に自分の好きな料理を聞かれたことはありませんので、ご存じありませんよね?」「そ、そうか……それはすまなかったな」途端にしおらしくなるランドルフ。「いえ、私は何も気にしておりませんので謝る必要はありません。それにどの料理も全て美味しいですから」「本当か? なら良かった。だが、オリビア。今回の件で私は良く分かった。この屋敷の中で、まともな家族はお前だけだということをな。今まで蔑ろにしてきた私を許してくれるか? これからは心を入れ替えて、お前を尊重すると約束しよう」「はぁ……」オリビアは呆れた様子で父親の話を聞いていた。(一体今更何を言っているのかしら? 生まれてからずっと、私の存在を無視してきたくせに。もうこれ以上話を聞いていられないわ。丁度食事も終わった事だし、退席しましょう)「お父様。食事もおわりましたし、これから大学へ行くのでお先に失礼します」椅子を引いて席を立ったところで、ランドルフが呼び止める。「ちょっと待ってくれ! オリビアッ!」「何でしょうか? まだ何かありますか?」内心辟易しながら返事をする。「ああ、ある。昨夜の件の続きだが……頼むオリビア! この間お前が食事してきた店を教えてくれ! この通りだ! 最近新聞社から、催促されているのだ! 若い世代に人気の定番料理に関するコラムを書い

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   42話 出て行って下さい

    「分かりました。お父様とどのような話をしたのか、お話いたします」「そうよ! 早く言いなさい!」ゾフィーは身を乗り出してきた。「ですが、その前に条件があります。その条件を飲んでくれない限り、お話することは出来ません」「どんな条件よ? お金でも欲しいのかしら? いくら欲しいのよ」「お金? そんなものは別にいりません。条件は一つだけです。私の話が終わったら、一切の質問もせずに即刻この部屋を出て行って下さい。いいですか?」「分かったわよ。それじゃ、どんな話をしていたのか言いなさい!」膝を組み、腕を組む。何処までも高飛車な態度のゾフィー。「お父様は、言ってましたよ。もう我が家は家庭崩壊だ、あんな家族と一緒の食事は楽しめないからごめんだと。これからは私と2人で食事をしようと提案してきたのです」(もっとも、そんな提案私はお断りだけどね)その話に、見る見るうちにゾフィーの顔が険しくなっていく。「な、な、何ですって……? ランドルフがそんなことを……? ちょっと! それは一体どういう……!」「そこまでです!」オリビアはゾフィーの前に右手をかざし、大きな声をあげた。その声に驚き、ゾフィーの肩が跳ねあがる。「ちょ! ちょっと! そんな大きな声を上げないでちょうだい! 驚くでしょう!?」「そこまでです。先ほどの私との約束をもうお忘れなのですか? 話を聞いた後は一切の質問もせずに即刻この部屋を出て行くと言う約束を交わしましたよね?」「う……お、覚えているわよ!」「だったら、今すぐ出て行って下さい。何か言いたいことがあるなら私にではなく、父に言っていただけますか?」「な、何ていやな娘なの!? ランドルフに聞けないから、お前の所に来たっていうのに……!」「頼んでもいないのに、勝手にこの部屋に来たのはどちら様でしょうか? とにかく、約束は守って頂きます。今すぐに出て行って下さい」オリビアはゾフィーを見据えたまま、部屋の扉を指さした。「くっ! オリビアのくせに生意気な……! ええ分かりましとも! 出て行くわよ! 出て行けば良いのでしょう!? 全く……ちょっとランドルフに贔屓にされたからって、いい気になって!」椅子に座った時と同様に、ガタンと大きな音を立ててゾフィーは立ち上がった。「……お邪魔したわね!」「ええ、そうですね」睨みつけるように見下ろすゾ

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   41話 迷惑な訪問者

    「ふぅ……今日は充実していたけど、何だかとても疲れた1日だったわ。こんな時はアレね」入浴を終えて、自室に戻って来たオリビアは事前にトレーシーが用意してくれていたワインをグラスに注いで香りを楽しむ。「フフ、いい香り」カウチソファに座り、アデリーナが勧めてくれた恋愛小説を手に取った時。—―ガチャッ!乱暴に扉が開かれ、義母のゾフィーがズカズカと部屋の中に入ってくるなり怒鳴りつけてきた。「オリビアッ! 一体今まで何処へ行っていたの! 私は何度もこの部屋に足を運んだのよ? 手間をかけさせるんじゃないわよ!」いきなり入って来たかと思えば、耳を疑うような話にオリビアは目を見開いた。「は? ノックもせずに部屋に入って来たかと思えば、一体何を言い出すのですか? まさか人の留守中に勝手に部屋に出入りしていたのですか?」「ええ、そうよ! これでも私はお前の母なのよ! もっとも血の繋がりは無いけどね。娘の部屋に勝手に入って何が悪いのよ」ゾフィーは文句を言うと、向かい側の席にドスンと腰を下ろした。「血の繋がりが無いのだから、私たちは他人です。大体、今まで一度たりとも私を娘扱いしたことなど無かったではありませんか!」「おだまり! オリビアのくせに! 戸籍上は親子なのだから、私はお前の母親なのよ! その親に対して口答えするのではない!」「はぁ? 今朝、散々シャロンに罵声を浴びせられていましたよね? そのセリフ、私にではなく、むしろシャロンに言うべきではありませんか?」「シャロンは部屋に鍵をかけて、閉じこもってしまったのよ! 取りつく島も無いのよ! 今はそんな話をしに来たわけじゃないわ。オリビアッ! お前、一体私たちに何をしたの! 何の恨みがあって、家庭を崩壊させたのよ!」あまりにも八つ当たり的な発言に、オリビアは怒りを通り越して呆れてしまった。「一体先程から何を言ってらっしゃるのですか? 意味が分かりません。大体元からいつ壊れてもおかしくない家族関係だったのではありませんか? そうでなければ簡単に崩壊したりしませんから。念の為、言っておきますが私には全く関係ない話です」「関係ないはずないでしょう!? さっきも父親と2人きりで楽しそうに食事をしていたでしょう? 一体何の話をしていたの! 言いなさい!」ビシッとゾフィーは指さしてきた。「あぁ……成程。つまり私と

  • 悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました   40話 媚びる父、取り合わない娘

    「はぁ、そうですか……」別にありがたみもない提案に、適当に返事をするオリビア。(さっさと食事を終わらせて、早々に席を立った方が良さそうね)無駄な会話をせずに食事に集中しようとするオリビアに、父ランドルフは上機嫌で色々話しかけてくる。煩わしい父の言葉を「そうですか」「すごいですね」と、適当に相槌を打って聞き流していたオリビアだったのだが……。「ところでオリビア、昨日町へ1人で食事へ行っただろう? 何という店に行ったのだ? 私にも教えてくれ。是非その店に行ってみたいのだよ。私が行けば店の宣伝にもなるしな」この台詞に、オリビアは耳を疑った。「……は?」カチャンッ!手にしていたフォークを思わず皿の上に落としてしまう。「どうした? オリビア」娘の反応にランドルフは首を傾げる。「お父様、今何と仰ったのでしょうか?」「何だ、よく聞きとれなかったのか? 昨日お前が食事をしてきた店を教えてくれと言ったのだが」「そうですか……では、そのお店に行かれた後はどうなさるおつもりですか?」オリビアは背筋を正すと父親を見つめる。「それは勿論食事をするだろうなぁ」「なるほど、お食事ですか……それで、その後は?」「は? その後って……?」まるで尋問するかのような口ぶり、いつにもまして鋭い眼差し……ランドルフはオリビアから、何とも形容しがたい圧を感じ始めていた。「答えて下さい、食事をした後の行動を」「そ、それは……味の評価を書く為に記事を書くだろうな……」(な、何なんだ……オリビアの迫力は……当主である私が娘に圧されているとは……)いつしかランドルフの背中に冷たい物が流れていた。そんなランドルフにさらにオリビアは追い打ちをかける。「はぁ? 記事を書くですって? 一体どのような記事を書くおつもりですか?」「そんなのは決まっているだろう。美味しければそれなりの評価を下すし、まずければ酷評を書くだろう。何しろ、こちらは金を支払って食事をするのだから当然のことだ。私の責務は世の人々に素晴らしい料理を提供する店を知ってもらうことなのだから」娘の圧に負けじと、ランドルフは早口でぺらぺらとまくしたてる。「お店から賄賂を受け取って、ライバル店をこき下ろすことがですか?」「う! そ、それは……ほんの特例だ! あんなことは滅多に起こらないのだよ!」「滅多にどころ

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